考察特集。

カルチャーを届けるメディア。考察特集。

「音楽による瞬間の可視化」− 君島大空の描く情景。

2019年に発表された「午後の反射光」や、フジテレビの音楽番組「Love music」のオープニング曲として採用された「火傷に雨」。シンガーソングライターとしての君島大空が世に認知されるキッカケとなった作品だ。

 

君島大空の作品に触れると、ある情景が浮かんでくる。どこかで見たことがあるような場所、いつか感じたことがあったような想い、これらが楽曲を通してにじみ出てくる。

 

 君島大空が描いたものから見える情景を紐解く。

 

「ある瞬間を引き延ばし、音楽によって可視化する」

”君島大空の作品に触れると、ある情景が浮かんでくる”と上で記したが、それは「音楽で何を捉えたいのか」という問いに対して語られた君島本人の考え方に答えがある。

 

たとえば、初恋の人の横顔を横目でかすめた瞬間とか。その一瞬を、音楽によって引き伸ばしたい。引き延ばして、瞼の裏に立ち現すことができないだろうか? っていうのが、自分のなかのテーマとしてあります。

音楽による可視化。それが、自分のやりたいことです。

引用:CINRA.NET「君島大空が求める「ギリギリ、音楽」。繊細な芸術家の脳内を紐解く

 

「ある瞬間を引き延ばし、音楽によって可視化する」

これが彼の作品から情景が見える理由。君島自身が描きたかった情景と聴き手の記憶が結びつき、新たな世界が出来上がる。

 

君島大空 MV「遠視のコントラルト」

遠視とは、近くのものや遠くのものにピントが合わずぼやっと見えてはいるが、対象のすべてをとらえられていない状態。

コントラルトとは、女声の最低音域。アルトのこと。

 

「午後の反射光」に収録された”遠視のコントラルト”。

手で触れれば壊れてしまいそうな繊細さ、雲間から光が差し込んできたような美しさ、苦しみを押し退けようとする力強さ、折り合って共存している様々な感情が押し寄せてくる。

 

なぜか、遠視のコントラルトからは、七尾旅人の1stアルバム「雨に撃たえば…!【Disc 2】」に収録されている”ガリバー2”に近しいものを感じた。

唸るようなギター、中性的な声、心底からひねり出した叫びのような詞。”遠視のコントラルト”から”ガリバー2”を感じたのは、これらが作用したからだろう。

 

君のからだに歌を描こう。

君は綺麗で、僕も綺麗だから…。

引用:七尾旅人ガリバー2」

 

ガリバー2」も「遠視のコントラルト」も、共感性の高い作品ではない。音楽によって情景を記録している装置。「この感覚を忘れたくない」という思いから作られている。

 だからこそ、まるで自分の経験のように感度高く情景が再生される。自分から曲に触れる瞬間、この感覚が得られる。

 

「わかってもらいたい」「誰かに寄り添いたい」といった想いから生まれる曲も存在する一方で、「この情景をしまっておきたい」ー音楽を通して映像や心情をそのまま残しておきたい。「遠視のコントラルト」もとい、君島大空の魅力は、ここにあるのではないだろうか。

 

どこか既視感のある景色に音を通じて飛び込める

「君島の音楽には映像がある。どこか既視感のある景色に飛び込める」

君島の作品と出会ってこんな考えが自分に生まれた。それは、”垂線”を初めて聴いた時のことだ。

 

朝の垂線/君島大空

 垂線とは、線と垂直であること。このライブ当時のタイトルが「朝の垂線」であることから、例えば水平線から登る朝日を垂線と表現したのかもしれない。

 

ガットギターの奏で、ぽつりとつぶやくようなメロディ、瞬間の場面に焦点を当てた詞、これらがお互いに作用して情景が作られる。

ー誰かの手によって記録された映像。薄暗い部屋の一つの窓から白い光が差し込んでいる。時間は流れているのか止まっているのか、繊細で優しい空間が脳裏で再生される。

 

3年ほど前、君島のライブに足を運んで購入したデモ。4曲入りのCDの1曲目、”垂線”との出会いはそれだった。

部屋の隅の本棚の一番見える所に、自分の宝物としてこのCDを保管している。

 

soundcloud Ohzora Kimishima「demo#2 trailer」

 

浮遊感漂うサウンドが時折見せる不穏な表情

君島の作品は繊細で美しい。しかし、それは「綺麗」や「優しい」といった言葉だけでは言い表せない。

切り取られた情景には、複雑な感情が潜んでいるからだ。

 

君島大空『夜を抜けて』 Live @ Shibuya WWWX 2020.2.19

 

 2020年2月、渋谷WWWXで行われた「夜会ツアー”叙景#1”」での”夜を抜けて”。甘美な詞と浮遊感漂うサウンドにより、幻想的な世界が広がる。

しかし、幻想的だから美しいのではない。幻想の中に潜む不穏さが見えた瞬間、この曲の美しさは完成する。

 

あなたがどれほど美しいのかを

あなたが知らないことが

どれほど美しいのかを

僕は言いふらして回りたいな

引用:君島大空「夜を抜けて」

 

美しさは、強烈さを感じた瞬間に生まれる。

”夜を抜けて”では、幻想的な空間に時折不穏な空気が合わさる。そこに強烈な印象を覚えて「美しい」と感じるのではないだろうか。

「午後の反射光」に収録された”夜を抜けて”でも、ライブとは色味の違う美しさが垣間見える。

 

 君島大空「夜を抜けて」

 

”見たことがあるようで自分の目で直接とらえていないもの”と接触できる

「ある瞬間を引き延ばし、音楽によって可視化する」これがテーマにあるからこそ、君島の作品には必ず情景がある。

見たことがあるようで自分の目が直接とらえていないもの、こんな情景と接触できるのが君島大空の最大の魅力だ。

今後も彼の新たな作品に出会えることを楽しみに待っている。 

 soundcloud Ohzora Kimishima