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夏を感じさせる曲が見せる表情【夏曲考察特集。】

一年の1大イベントとも言える、夏。音楽の曲にも、夏をテーマにした作品が多く存在する。

 

しかし、テーマは同じでも、曲中での夏の取り上げ方は作品ごとで変わる。それは、夏という季節に様々な表情があるからだろう。

 

今回は、「夏を感じさせる曲が見せる表情」について、考察してみようと思う。

 

 

”夏がゆえの不自由さ”スーパーカー「cream soda」

スーパーカーは、1997年にデビューした4人組のロックバンド。「cream soda」は、そのデビュー曲である。

 

爽快なサウンドのギターリフによって冒頭から疾走感がある点、「広い空」「ひこうきぐも」といった青空を想起させる言葉が使われている点が、この曲の持つわかりやすい夏の表情と言えるだろう。

 

ただ、スーパーカーが「cream soda」で表現したかった夏は、疾走感や爽快さだけではない。それは、このフレーズから読み取れる。

 

ずっと向こうのその先に、きっと自由があるのにねぇ、そのせいだよ。

引用:スーパーカー「cream soda」 作詞 いしわたり淳治

 

広く澄み渡った青空。どこまでも続いており、どこへでも行けそうな気がする。

しかし、現実はそううまくいかない。

わかりやすく言えば、まさに今のコロナ禍。離れた実家に帰ることすら断念しなければならない状況である。

 

本来自由であるべきはずが、様々な要因によって不自由さしか手につかめない。スーパーカーは、そんな夏が持つ特有の不自由さを「cream soda」で表現したかったのではないだろうか。

 

”気づいたら俺はなんとなく夏だった”NUMBER GIRL「透明少女」

NUMBER GIRLは、1995年に結成された4人組のロックバンド。「透明少女」は、彼らの2ndシングルとして、1999年にリリースされた。

 

「透明少女」の持つ夏の表情と言えば、このフレーズだけできっと充分と言える。

 

気づいたら俺はなんとなく夏だった

引用:NUMBER GIRL「透明少女」 作詞 向井秀徳

 

このフレーズは、「いつの間にか季節は夏になっていた」のような表現ではない。曲の主人公、もとい作り手自身が、夏そのものになったのだ。

 

熱狂や爽快、疾走のような夏らしい感情、それらが過去の記憶によって意図せずに呼び起されていた表現。これが「透明少女」の見せる夏の表情だと言える。

 

ギターの爆音とボーカルの咆哮、それらも相まって、「透明少女」を聴けば、いてもたってもいられないような夏の感情が呼び覚まされることだろう。

 

 

NUMBER GIRL - 透明少女 

”夏の夜風に薫る風景”GLIM SPANKY「夜風の街」

GLIM SPANKYは、ギターボーカルの松尾レミとギターの亀本寛貴の男女2人による音楽ユニット。2013年にリリースされたミニアルバム”MUSIC FREAK”の5曲目に「夜風の街」が収録されている。

 

GLIM SPANKYの曲は攻撃的で力強い作品が多いなか、「夜風の街」は現実的でノスタルジックな一曲となっている。

作詞を担当した松尾によると、「この曲は同じ志の親友同士が時を経て、一人は東京、もう一人は故郷に帰ることを選択するストーリーを描いた」とのこと。

 

街角は鳴るよ 響きだす家族の音

遠くに電車が行くよ

灯しだす街の色に染まったら 帰ろう

本当のことは知らずに 僕と

引用:GLIM SPANKY「夜風の街」 作詞 松尾レミ

 

ある夏の夜風が吹く日の風景を切り取った一曲。幼少時代や青春時代、思い起こせば輝いている頃がふと想起されるような世界観で描かれている。

 

夏には特有のイベントが多いため、四季のなかでも思い出の多い季節である。だからこそ、過去の思い出によるもの寂しさも多い。

GLIM SPANKYの「夜風の街」は、そんな夏の日の思い出が蘇る一曲と言えるだろう。

 

 

”抽象的な詞、浮遊感のあるサウンドから見える夏” Spangle Call Lilli Line「nano」

Spangle Call LIlli Lineは、1998年デビューの3人組ロックバンド。2001年に、「nano」が1stシングルとしてリリースされた。

 

バンドの方針としてなのか、「nano」を含めてどの曲でも、誰もがとっつきやすくわかりやすい表現が一切使われていない。にもかかわらず、サウンドやメロディと合わさったとき、一見何の脈絡もない抽象的な言葉同士によって、一つのみずみずしく美しい世界が作り出される。

 

由来 霍乱の照り足す 目に映る 言わず非

よぎった中庸の連みたい トゲに巻く 組み替えし

引用:Spangle Call Lilli Line「nano」 作詞 大坪加奈

 

Spangle Call Lilli LIneは、きっと聴き手に曲の解釈の仕方をゆだねているのだろう。詞だけではなく、どこかけだるげなメロディや浮遊感のあるサウンドから、筆者自身は、「nano」から夏のもの寂しさの残るある夜を感じ取った。

 

聴き手次第では夏の曲にはならないかもしれないが、自分だけが見える表情を探しに、Spangle Call Lilli Lineの「nano」を聴いてみてはどうだろうか。

 

 

 Spangle Call LIlli Line "nano - TK kaleidoscope Remix"(Official Music Video)